春の訪れとともに、日本中が桜色に染まる季節がやってきます。桜は日本人にとって特別な存在。その美しさは料理の世界にも深く根付いています。桜にちなんだ料理や食材は、見た目の美しさだけでなく、その風味や香りは私たちの感覚を魅了します。

本記事では、春を味わう桜にちなんだ料理と食材をご紹介します。桜鯛や桜肉、桜エビなど、名前に桜が付く食材や、桜の花や葉を使った伝統的な和菓子など…、多彩な桜の味わいをお愉しみください。

これらの料理や食材は、春の季節感を存分に味わえるだけでなく、日本の食文化の奥深さをも感じさせてくれます。

春の食卓に彩りを添え、舌で春を感じる桜にちなんだ料理と食材の世界へ……。

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桜鯛:春の訪れを告げる桜色の魚

春を象徴する桜は、その美しい花だけでなく、食の世界でも様々なかたちで人々を楽しませてくれます。

桜の名を冠した料理や食材は古来よりたくさんありました。


春ともなれば、やはり、鯛が食べたくなってくる     -中略-    春の鯛がもっとも旨いような気がする

(池波正太郎『作家の四季』-春の鯛ー作家の四季⑦より(講談社文庫)

 

桜の咲く時節になりますと、鯛は産卵のために沿岸に寄ってきます。この時期の鯛は美しい色調を帯びていますから、桜鯛とか花見鯛などと申しまして 珍重されます。(スズキ科のサクラダイというのは別魚、後述)

 

桜鯛として愛でるのは江戸時代からのことでしょうか。越後の文人、鈴木牧之(すずきぼくし・1770ー1842)に
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鱗の花散って哀やさくら鯛
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の句があります。寛政8年(1631年)に旅先の伊勢(尾鷲)で詠んだものです。

 

落語に「桜鯛」というのがありましたね。短い噺ですから枕で演じられることもあります。昭和の名人といわれる六代目・三遊亭円生は「桜鯛」の口演中に倒れ、最期となったそうです。(口演中ではなく高座を終えた直後に倒れ急逝されたようです。生没同日79歳の誕生日・9月3日)

落語「桜鯛」あらすじ

ある殿様、お庭の桜を身ながらの食事はでありました。殿様は魚を食べる時は、一箸しか入れないのが作法とされていました。

殿様は一箸入れた後、あまりの旨さに
代わりを持て
と、お代わりをご所望。
普段はひと口しか召し上がらないので、お代わりは用意してない。
お付きの者 機転を利かして
殿、ご覧ください。お庭の桜の花が満開です
殿様が桜を見ている隙に鯛を裏返して、差し出す。
殿様またもや一箸をつけ、鯛のお味にすっかりお気に入り。またもや
代わりを持て」 と。
おつきのもの困り果てていると、、、殿様いわく
代わりはまだか。ならばまた、桜を見ようか

あらすじを申し上げたところで面白いものではございませんが、かいつまんで申しますと、落語の「桜鯛」は以上のような噺でありました。

桜鯛礼賛

桜鯛は、春に旬を迎えるマダイの別名です。桜の季節に産卵を迎えることから、桜鯛という名前が付けられました。桜色の美しい体色で、身は締まっており、上品な甘みと旨味があります。桜鯛は全国的に漁獲されますが、特に瀬戸内海や九州地方で人気があります。

とまぁ、桜鯛礼賛を記しましたが、実は次のようなご意見もあります。

産卵期である春は肉質が悪い。実際に旨いのは夏以降の肥満度が増してからである

確かにそのとおりですね。たとえば、京都の祇園祭には欠かせない鱧(ハモ)料理は「夏が旬」、ということになっていますが、本当は身が肥えて脂がのった「晩秋」の所謂「名残りのハモ」が一番うまいことは通人でなくとも周知のことです。天然鰻(うなぎ)だって本来の旬は土用の丑の日ではなく晩秋でしょう。

このあたりは、日本人の季節を愛でるこころゆえ、ということでよろしいのではないかと。多く獲れる時期のものを流通させたいという思惑もあるでしょう。土用丑の鰻だって平賀源内先生の販促プロモーションだったという話もありますし。

ただ、この時期の桜鯛がまずいというわけではありませんよ。旬には関わりの少ない養殖ものはさておき、産地、鮮度の良きものを活け締め(や神経抜き)の旨い桜鯛も出回わりますから、目利きの方に訊いて選んでみましょう。

最近は地域の特色を掲げた所謂「ブランド鯛」が天然、養殖のどちらにもたくさんあります。地域独自の名を冠した鯛はそれぞれの選定基準を設けています。養殖技術の進歩により養殖鯛の品質も安定してきて比較的廉価に手に入るようになってきました。天然物に比して身の脂肪分は多いのですが、滋味の点では天然物にかないません。品質の良い天然鯛は少なくなってきており、ますます高値になってきているのが実情です。

 

サクラダイ

市場にはあまり出回ることのない魚ですが、「サクラダイ」(桜鯛、学名:Sacura margaritaceaスズキ目スズキ亜目ハタ科ハナダイ亜科)という名前の魚種もいます。桜色よりも派手な濃い赤色(特にオス)で真鯛より小振りな魚です。主にかまぼこの原料になるそうです。

桜鯛祭り

徳島県鳴門市の海の駅、「JF北灘さかな市(ジェイエフきたなださかないち)」では、4月に「桜鯛祭り」を開催しているそうです。定置網で水揚げされる天然鯛「鳴門北灘べっぴん鯛」というブランド魚が主役です。(2024年は4月20日(土)でした)

鯛めし・鯛飯

「鯛めし」または「鯛飯」と呼ばれる料理は、全国各地で親しまれています。真鯛を丸ごと炊き込んだり、飯を鯛の腹に鋳込んだり、ほぐし身をご飯に混ぜ合わあわせたものなど様々です。
「宇和島の鯛めし」も独特な味わいと歴史を持つ郷土料理です。醤油、みりん、酒、砂糖などをベースにしたタレに卵(卵黄)を入れ混ぜ合わせ、生の真鯛を漬け込み、薬味と一緒に温かいご飯に盛り付けます。生の真鯛の食感と優しい味わいが特徴です。

鯛麺

鯛麺」(たいめん)とか素麺(たいそうめん)、鯛めんなどと呼ばれる料理があります。瀬戸内海に面した岡山、広島、兵庫、愛媛県、そして熊本、大分県あたりにも伝わる、鯛と素麺を大皿に盛った郷土料理です。地域によって盛り付けや供され方は異なると思いますが、多くは祝い事などで振舞われます。

鯛茶漬け

茶漬けの起源は古く平安時代に遡ります。「湯漬け(ゆづけ)」や「水飯(すいはん/みずめし)」などと呼ばれていたものが起源と言えるかと思います。乾燥して硬くなったご飯を柔らかくして食べやすくするために、熱湯や冷水をかけて食べる方法でした。

江戸時代になると、お茶の普及とともに、お茶をかけて食べる「鯛茶漬け」が広まったようです。お茶ではなく出汁を使う「鯛茶漬け」も江戸時代に武家では供されていた、という逸話が残っています。現在、和食屋で供される鯛茶漬けもお茶を使う店と出汁とに分かれるようです。また胡麻が使われることも多いのですが、具材の鯛身の上に胡麻を切る場合と、練りごま入りの漬け汁に鯛身を漬け込んで使う場合とがあります。
長崎県には「平成長崎俵物」という伝統的郷土料理の認定制度があり、「鯛茶漬け」もそのうちの一品に選ばれています。

日本料理の名店「吉兆」(創業者・湯木 貞一/1988年1988年)は1930年の創業時は、カウンターだけの割烹料理店「御鯛茶処 吉兆」としての出発でした。店名に鯛茶を冠するほどに、吟味された材料と洗練された技で、卓越したそのお味は評判となり後の押しも押されもせぬ名店「吉兆」の礎となったのだと思います。

鯛の刺し身に下味をつけ独特の胡麻だれをまぶす、その手法を多くのお弟子さんが継承なさったのでしょう。胡麻だれと合わせ出汁を使う鯛茶漬けはこのようにして、吉兆の御鯛茶から全国へ広まって、今日の和食界に定着したのだと思っています。いまは家庭用の御鯛茶セット商品が販売されています。

 

鯛麺や鯛茶漬け等に少し費やしすぎました。これらは桜の季節や桜鯛に限ったことではないので、当記事の趣旨とは少し外れてきてしまいました。次の項から桜に戻しましょう。

桜肉と桜鍋(さくらなべ):馬肉の風流な味わい

馬肉は古くから「けとばし」(蹴飛ばし)と呼ばれますが、「桜肉」という美称もあります。
坂本龍馬・作と言われる都々逸
咲いた桜になぜ駒つなぐ,駒が勇めば花が散る♪」(駒=馬)
から取り入れたと言われていますが、諸説あります。肉が桜色だから、桜咲く頃の越冬馬刺しの旨さゆえ、などなど。
山梨の「甲斐の黒駒」は日本書紀』雄略記にも記されているという駿馬で、逸話説話がたくさんあります。現代山梨県の代表的な47品目として選ばれる「特選やまなしの食」に「馬刺し」(桜肉)が選定されています。
*    *    *
馬肉料理として親しまれてきた「桜鍋」は江戸料理(江戸で発達した料理、あるいは、その流れを汲む東京の郷土料理)のひとつにも数えられています。精がつく料理だということで色街界隈で供されることも多かったようです。江戸時代中期にも流行したとされています。東京で初の官許を得ての馬肉販売店は1877年(明治10)上野黒門町でした。
現在の桜鍋は、すき焼き風にしたり、薄切りを桜の花びらを模した盛り付けを鍋でしゃぶしゃぶのようにして食すことが多いように思われます。
桜鍋は全国的に食べられますが、特に馬肉の生産地である熊本県、福島県を含む東北地方、長野県、山梨県などで盛んに食されています。
夏目漱石の『三四郎』(1908年、明治41)に熊本の場面があります。
たまたま飲食店へ上がれば牛肉屋である。 その牛肉屋の牛が馬肉かも知れないという嫌疑がある。学生は皿に盛った肉を手攫みにして、座敷の壁へ抛たき付ける。落ちれば牛肉で、貼り付けば馬肉だという。まるで呪みたような事をしていた。
(出典:青空文庫 https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/794_14946.html)

この時代はまだ馬肉が安価で、牛肉に馬肉を混入させる業者を警視庁が摘発した、という逸話も残っています。

桜鱒(サクラマス):春の訪れを告げる川魚

 桜の時期に河川を遡上するマスであることから、桜鱒という名前があります。桜鱒は桜の時期が最もうまいとされています。この時期のものは、身が引き締まっており、上品な甘みと旨味があります。刺身や塩焼き、ムニエルなど、様々な調理方法で楽しめます。
主に日本海側で漁獲されます。特に山陰地方や北陸地方で人気が高く、春の味覚として親しまれています。近年はサクラマスの昆布締め(富山の郷土料理)も人気があります。富山といえば、鱒寿司も本来はサクラマスであったのですが、漁獲減少で高騰の天然ものに変わって別種が使われます。致し方ないことではありますが、時節には本物のサクラマスで供する料理屋さんもあります。

桜エビ:駿河湾の宝石

  透き通ったピンクの生体色と、春に旬を迎えることから、桜エビという名前があります。白海老が「富山湾の宝石」ならコチラは「駿河湾の宝石」というわけでしょう。他の地域の海域でも生息していますが漁獲対象となっているのは日本では駿河湾だけです。
 桜えび独特の香ばしい旨味が凝縮された味わいがある。生サクラエビや干しエビ(干物)の他、 生桜えび、釜揚げ(茹で)、かき揚げ(かき揚げ丼・天丼)など様々な料理がある。地元漁師料理の「沖あがり」はすき焼き風割り下で煮えばなを食する。
近年は桜エビの不漁がつづき自主規制など様々な取り組みが行われている。台湾からの輸入も行われている。2023年は往時ほどではないが久方の豊漁だった。2024年の春漁も23年を30トン上回った。(漁は春と秋、年2回)

桜でんぶ:都ぞ春の錦なり

桜でんぶは、桜色をしたでんぶです。昔からの「でんぶ」は魚身(昔は鯛や鱈)を茹でて、ほぐして、すり鉢で摺り、味付けし、炒って作ります。おぼろ、力煮(ちからに)、都春錦(としゅんきん) ともいいます。「都春錦」はでんぶの中でも高級品でその作り方を簡略にしたものが「でんぶ」であるという説があります。「都春錦」という名称は古今和歌集にある歌に由来します。
見渡せば柳桜をこきまぜてなりける』     素性法師(そせいほふし)
はるかに見渡すと、緑の柳と薄紅の桜をまじり合わせて、ほかならぬこの都こそが、春の錦(の織物)だったのだ。(現代語訳は『三省堂 全訳読解古語辞典〔第四版〕』より)
」といえば通常は「錦秋」(きんしゅう)を思い起こしますが、作者は自身が住む都の春景色を見渡して、それがあたかも「春の錦」であると気付かされたのでしょうね。

「でんぶ」の漢字は「田麩」あるいは「田夫」です。「田麩」は乾燥した麩に似ているから。「田夫」には「洗練されていないこと」や「いなかもの」意味があります。せっかくの魚をバラバラにしてしまうような無粋な調理であることを示唆しているといいます。

また、「田夫」由来の「梅が枝田夫」の逸話があります。
病気がちで食欲がない夫のために、産土神(うぶすながみ)に一所懸命にお詣りする貞婦がいました。ある日、庭の梅の木に御神札が結ばれていました。それには、土佐節を細かく削り酒や醤油などで調味せよとあります。夫にそれを勧めるとたちまち食欲がでて、元気を取り戻し病気がなおりました、というお話です。
桜でんぶは江戸時代後期に寿司屋で考案されたという説があります。寿司ネタのエビを甘く煮詰めたのが始まりだったというものです。現在の桜でんぶは白身魚を原料とし特徴的な桜色は、食紅で色付けされたものです。メーカーや地域によって味付けの差異はありますが、一般的には砂糖やみりんを主に甘く仕上げます。

桜煮(さくらに):春の訪れ蛸の煮物

桜煮はタコを桜色に煮た料理です。蛸を柔らかく煮る方法は昔から色々工夫されてきました。生蛸を大根でまんべんなく叩く、大根輪切りを一緒に煮る、小豆を入れて煮る、番茶で煮る、密閉し蒸し上げる、炭酸水やコーラで煮る、圧力鍋を使う、などなど…… ただし、時間をかけますから、濃い色に仕上がります。桜煮というにはちょっと濃すぎる色合いですね。
桜煮を淡い色に仕上げるためにさっと炊く「早煮」という手法で仕上げます。水と酒で柔らかくなるまで煮た後、砂糖、醤油で味をつけるという寸法です。前述の炭酸水で煮る方法を併用してもいいでしょう。

蛸の桜煎り

 「蛸の桜煎り」(炒り)という料理があります。タコの足をごく薄い小口切り(輪切り)にして桜の花に見立てたものです。出汁と醤油で薄味でさっと炊きます。江戸時代から、あるいはそれ以前からあったとも言われています。ほとんど醤油は使わないという方もいます。薄切りの蛸を桜の花びらに見立ててその名があるのでしょう。また薄切りではなく包丁で叩いてみじん切り(そぼろ状態)にするという方法(地方)もあるようです。このやり方は一緒に炊く大根なども蛸の色が移って桜色というわけです。

桜寿司

蛸の薄切りを桜花に見立てた「桜寿司」は江戸の昔から作られていたようです。蛸を使わない、個々のお店のオリジナルの桜寿司が昨今は供されます。桜花や葉の塩漬けを使った桜寿司、桜花の色形を模した桜寿司など様々です。

桜飯

静岡の遠州地域では淡い醤油味の炊き込みごはんを「桜ごはん」と呼ぶそうです。「桜飯」(さくらめし)ともいいますが、江戸時代には「桜茶飯」と呼ばれていました。あるいは黄枯茶の色から「黄枯茶飯」(きがらちゃ‐めし)。現代でも関東のおでん屋さんでは「茶飯」がありますね。
塩漬けの桜の花を塩抜きして、ご飯に散らす「桜飯」もあります。蛸を一緒に炊き込んだ蛸飯を「桜飯」と名付けるお店も結構あります。

桜蒸し;薄紅色に染まる道明寺粉

桜花漬けを混ぜた飯蒸しも「桜蒸し」ですが、道明寺粉で魚介を包んで蒸し上げる「桜蒸し」をご紹介します。
魚介は鯛や甘鯛などの白身魚、あるいはエビや蛤などを使うこともあります。出汁で道明寺粉を戻してふやかします。このとき食紅をごく少量入れ淡い桜色に仕立てます。この道明寺粉で魚介を俵型に包み、桜の葉を巻き被せます。蒸し器で蒸しあげ、薄味に調味した葛餡(銀餡)を回し掛けます。天には桜花などを飾ります。季節の青みを添えたり、ぶぶあられをちらしたり様々な供しかたがあります。
上とは逆のやり方もあります。もどした道明寺粉で俵型を作り、芯に銀杏や掻き百合根を射込みます。それに魚介類を被せて、さらに桜花で包む方法です。鯛や甘鯛を使う場合は皮目を残した松川づくりにして使うときれいですね。
道明寺粉を使わずに魚介類を桜の葉で包み、蒸し上げ葛餡をかけて、仕上げとする場合もあります。とまれ桜の葉や花を使った蒸し物は「桜蒸し」ということになるのでしょう。
近頃は道明寺粉を家庭で使うことは少なくなりました。水に浸した糯米(もちごめ)を蒸して、天日乾燥させたものを干し飯(ほしいい・ほしい)➜(ほしい)といいます。これをやや粗めに挽いたものが「道明寺粉」です。大阪市藤井寺市に現存する道明寺の尼僧が作った「道明寺糒」が知れ渡り広がったと言われています。千年以上も前から作られており、「道明寺糒」は今も販売されています。

桜粥(さくらがゆ):優しい味わいの粥

小豆粥はその色合いから「桜粥」(さくらがゆ)と呼ばれます。小豆粥を小正月(1月15日)に食べる風習は平安時代の宮中から伝わる行事でもあります。陰暦で15日を望の日ということから「望粥」(もちがゆ)ともいいます。

桜粥という呼称は江戸時代の俳諧師・越谷吾山(こしがや ござん、1717年- 1788年)による『物類称呼』(ぶつるいしょうこ、1775年刊)という方言辞典に次の初出があるそうです。

「あづきがゆ、加賀にて、さくらがゆと云」   (物類称呼(1775)四)

✔ 小豆粥ではなく、桜花の塩漬けを用いた「桜粥もあります。こちらは桜の時季に作ります。

桜の塩漬け:春を愛でる風味と香り

桜花や桜葉の塩漬けは古くから行われていたようです。桜花塩漬けは平安時代に、桜葉塩漬けは奈良時代にはすでに作られていたと言われます。ここまでにご紹介してきました料理の中でもしばしば桜花桜葉塩漬けが使われていました。

桜花塩漬け

桜花の塩漬けは桜漬けともいいます。現在は主に八重桜の関山(カンザンまたはセキヤマという種が使用されます。大島桜(オオシマザクラ)をもとにした栽培種で花びらが厚く、香りが強く、色も染井吉野(ソメイヨシノ)の白色に比べて濃い紅色が特徴です。

桜湯

お見合いの席や祝い事にはお茶の代わりに桜湯が供されます。茶は「茶々を入れる」や「茶を濁す」ことに通じるので避ける、という縁起かつぎからのことです。桜花にあるクマリンという芳香成分には、抗酸化作用があるそうです。

桜葉塩漬け

桜葉の塩漬け奈良時代には作られていましたが、当時は主に薬用だったようです。江戸時代になると、庶民の間にも広まり、菓子や料理の材料として使われるようになりました。
桜の葉の塩漬けには、主に大島桜(オオシマザクラ)が使用されます。大島桜は葉が大きく、香りが強いのが特徴です。現在塩漬け用に栽培されている大島桜は収穫作業の効率化から身の丈程度の高さだそうです。
その他、ソメイヨシノやカンザクラなど、様々な種類の桜が使われます。安価な中国産もあります。

桜餅

桜葉は様々な料理に使われますが、馴染みがおありなのは桜餅でしょう。享保2年(1717年)山本新六なる人が向島の長命寺門前に「山本屋」を開業し桜餅を売り出したのが始まりとされています。同年に徳川吉宗による隅田川沿いの桜木植栽が行われ、花見客で賑わい、広がっていったということです。今も台東区向島には長命寺桜もち(ちょうめいじさくらもち)の店があります。江戸時代の様々な絵画(例えば歌川国芳や歌川広重)や文章(曲亭馬琴の『兎園小説』など)に桜餅または桜餅屋が登場します。
明治21年、「山本屋」に逗留していた正岡 子規(まさおか しき、1867年ー1867年)はに次の歌があります。

「花の香を若葉にこめてかぐはしき桜の餅(もちひ)家づとにせよ」
桜餅は関東風と関西風があり、少し趣が異なります。

関東風は小麦粉など粉ものを使った生地を焼いて、餡を包み、仕上げに桜の葉で包みます。

関西風は生地に道明寺粉を使い餡を包み饅頭状に仕上げ桜の葉で包みます。道明寺粉ですから餅の表面は細かいつぶつぶがあります。

現代では各地に様々な桜餅があり、味形状ともに趣向を凝らしたものがあります。

例えば桜葉漬けの生産地でもある、伊豆松崎町の「長八さくらもち」。皮は上新粉と餅粉、餡はつぶし餡、桜葉は上・下それぞれ1枚を使い挟むように包んだ細長い形状です。名称は江戸時代末期から明治時代にかけて当地で活躍した左官の名工、入江 長八(いりえ ちょうはち)に因んだのでしょう。(同町内には石山修武設計の「伊豆の長八美術館」があります。)

さて、ここからは、和食以外にも目を向けてみましょう。当ページもだいぶ長くなってきましたので、簡単レシピを中心にあっさりと仕上げてまいります。

 桜チップスモーク:春の香りを纏った簡単燻製料理

アウトドアに限らず自家製の燻製は乙なものです。スモーク用のチップさえ用意すれば家にある調理器具利用で簡単に始められますから、まずはお試しになってみたらいかがでしょうか。

桜チップは比較的短時間で、スモーク香の風味や色調が食材につくので初心者にも人気があります。桜チップ特有の甘く繊細な香りを愉しむことができます。

桜チップは、豚肉や羊肉など肉類や、青魚やホタテなど魚介類などに相性が良く幅広く使えます。少し慣れたら、食材に火を通さないスモークサーモンや生ハムなども試してみてください。和洋問わず多彩な料理に活用出来ます。

 桜チップスモーク鶏肉

桜チップでのスモーク鶏肉は、鶏肉の柔らかさと桜の香りが調和した燻製料理です。鶏むね肉やもも肉を使用し、低温でじっくりと桜チップの煙に当てることで、しっとりとした食感と桜の風味を味わいましょう。

そのままガブつくのでも構いませんが、用途は際限なくあります。薄切りにしてサンドイッチの具材として、あるいはサラダにいれるなど……野菜などを添えたり和えたりと様々な料理で利用しましょう。

では、とっておきをひとつ。桜チップスモーク鶏肉を使用した親子丼なんていかがでしょうか。親子丼の作り方は、玉ねぎ三つ葉などを下煮して鶏肉を入れ溶き卵をふんわりと掛け回す、常の通りで構いませんが、スモーク鶏肉は火を入れすぎないようにしてください。

野菜は炒めてから煮るなどあなた様のいつものやり方でどうぞ。仕上げには天に少し塩抜きした桜花の塩漬けをあしらって、春らしい新しい味わいを愉しみましょう。自家製なればこその旨さです。

 桜チップでスモークサーモン

生のサーモンを桜のチップで燻製してみましょう。フライパンを使う簡単なやり方をご紹介します。

1切れ100g程度サーモンを2枚使うということで。(材料の分量は適宜調整してください)

桜のチップ50gくらいと砂糖小1.5ぐらいを混ぜ合わせておきます。

深めのフライパンのそこにアルミホイルを敷いて、①を広げておき足のついた網を載せます。(100均にあります。)網には刷毛でオリーブオイルを塗ってください。サーモンを乗せて蓋をピタッと被せます。

最初は強火、直に煙が上がってきますから、弱火にしてください。そのまま7〜8分立ったらもう一度火を強めて1分間。火を止めて2分蒸らしましょう。

カリフラワーやエリンギなどの野菜があれば、一緒にスモークして、盛り付けてもいいでしょう。

もし脱水シート(ピチットシート)をお持ちなら、生サーモンを包んで小1時間脱水してからスモークするとさらに旨いものができるはずです。

サーモン本来の旨味に、桜の香りが絶妙にマッチし、風味豊かな上品な味わいが生まれます。薄くスライスしてカナッペやサラダのトッピングとして使用したり、クリームチーズを塗ったバゲットに乗せるなど、アペタイザーでよし、おつまみでも良し、イケます。パセリのみじん切りやハーブをつまんであしらうなど盛り付けは工夫してください。もちろん桜の花なんか良いですね。

 

桜パスタ:イタリアンに桜の風味を

桜パスタは、おなじみイタリア料理に、桜を冠した食材を取り入れて春の象徴を表現した創作料理です。と、大層に言ってみましたが、おなじみのペペロンチーノやクリームソースがベースです。春のメニューとしてお試しあれ。簡単なれどお味も香りも見た目にも注目を引くメニューです。

 桜えびのペペロンチーノ

桜えびのペペロンチーノは、駿河湾の特産品である桜えびを使用したパスタ料理です。桜えびの鮮やかなピンク色と香ばしい風味が、パスタに春らしさを添えます。

オリーブオイルに薄切りニンニクと輪切り唐辛子を入れ弱火。香りが立ったら桜えび(できれば桜エビか釜揚げ桜エビ)をさっと炒めます。塩を少し入れたたっぷり湯で、アルデンテに茹でたスパゲッティとその茹で汁を加えて素早く絡める。一般的なごくシンプルな調理法です。仕上げに粗みじんに刻んだイタパセを散らす。お好みで粉チーズを。

見た目もお味も華やかな一皿になります。
下茹での蚕豆や菜の花、春キャベツなどを加えても良し。ゴタゴタ入れすぎないように。)

桜香るクリームパスタ

クリームベースのパスタソースに桜の風味を加えてみましょう。桜の塩漬けや桜パウダーを使用し、淡いピンク色のソースに仕上げます。桜の香りが口の中に広がり、春の訪れを感じさせる味わいです。
たとえばこんな風に↓ レシピの一例です。分量は2人分ぐらい。

桜の花の塩漬けは流水で洗い、さらに水に浸します。(少し塩気が残るくらい。1時間ぐらいが目安)水気を拭い茎を除いて粗みじん。(飾り用に、切らずに少し残しておく)

桜のクリームソースを作ります。桜のフリーズドライパウダー(小さじ1/2〜)、牛乳(35ml〜)、バター(15gあれば無塩で)、を弱火にかけ混ぜ合わせて生クリームを注ぎ入れ加熱します。(沸騰させないよう素早く)味を整えてください。

ここに茹でたてパスタを入れて絡めます。粗みじんに刻んでおいた桜花も混ぜて盛り付けます。さらに桜のフリーズドライパウダー(分量外)や刻んだ桜花を全体に散らして、桜花を飾ります。生クリを入れたら火を入れすぎないように気をつけましょう。

材料は適宜加減してください。茹でた春野菜を一緒に絡めたり、パルメザンチーズを利用なさっても美味しいですね。

 桜ジャム:食卓をほんのり彩る春の甘み

桜ジャムは、桜の花びらや葉を使って作る季節限定の甘味です。淡いピンク色と桜特有の香りで、春の訪れを愉しみましょう。

簡単な作り方をご紹介します。ここでも桜花の塩漬けを利用しました。風味豊かな 桜ジャムに仕上がりますよ。
【材料】
桜花塩漬け200g〜 、砂糖180g、絞ったレモン果汁大匙1、粉ゼラチン9g、水300ml

① 桜の塩漬けは流水で洗いさらに水に1〜2時間浸して塩気を抜く。ゼラチンは水(分量外)でふやかしておく
② ①の水気を切り拭って、茎を除いて花だけをみじん切り。
③ ②に砂糖、水を加え一度沸騰させそのまま弱火で5〜6分。
④ ふやかした粉ゼラチンを入れて混ぜ回す。レモン果汁を加えてさらに混ぜる。
⑤ 冷やして、ジャム状に固まれば仕上がり。

桜花など材料の分量は好みで増減してください。

バターを塗ったトーストに桜ジャムを重ねてみたり、プレーンヨーグルトに桜ジャムを加えるのもお試しください。グラノーラやナッツを加えてみるのも、食感の変化があって嬉しいものです。

桜花の塩漬けや桜のフリーズドライパウダーなどを利用すると、桜のスイーツやデザートが簡単に作れます。

思いつくまま挙げてみますと、桜プリン、桜団子、桜のレアチーズケーキ、桜のスコーン、桜のババロア、桜のパンナコッタ……もうキリがありません。いまググってみましたらこれらすべてネット上にありましたよ。

まとめ

桜にちなんだ料理と食材は、日本の春を象徴する味覚の宝庫です。本記事で紹介した選りすぐりの料理と食材は、それぞれが独自の魅力を持ち、春の訪れを五感で感じさせてくれます。

まとめ
  • 桜鯛:春の海の恵みを代表する高級魚
  • 桜肉:繊細な味わいの馬肉料理
  • 桜エビ:駿河湾の春の宝石
  • 桜でんぶ:彩り豊かな鮮やかなピンク色の佃煮
  • 桜煮:春の訪れを告げる蛸の煮物
  • 桜蒸し:桜色に染まる道明寺粉の和菓子
  • 桜の塩漬け:多様な料理に春の風味を添える

桜にちなんだ料理や食材を愉しむことは、日本の食文化の奥深さと季節の移ろいを味わい、心豊かな食生活を送ることにもつながることでしょう。

桜の季節…、さまざまな「桜」の味わいで、春の訪れを感じるのも一興でありましょう。

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